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2005’11.15・Tue

DAY WHEN YOU KILLED ME

「き、今日は新しい商品のご案内に…」
 銀行員、間崎九朗はおずおずと部屋を覗いた。190センチはあろうかという上背で胸板の厚い威丈夫だが、かもいも無いのに四六時中、腰が低い男だった。
 勢いよく頭を下げた拍子にずれた銀縁眼鏡を直して見ると、家の主が陣取るその部屋にはもうもうと紫煙がたちこめていた。タバコが苦手な間崎の眉が下がる。できるなら近づきたくはなかった。

 不機嫌を人の形にしたようなその人物は、上井誠という流行作家だった。普段は渋みのあるいい男で、用も無いのに週刊誌に写真を載せられたりする。サスペンスやホラー系を得意としていて、容姿のよさも手伝って、ついたあだ名がダークナイトだ。
 だが、間崎の目の前に居るのは、無精ひげで睡眠不足でどろりとした目の、煮詰まって限界に達した得体の知れない物の怪である。居業と思えぬ鍛えられた体が恐ろしさを倍増しにしている。

「アレは?」
 上井は間崎を見ると横柄に聞いた。すかさず銅鑼屋の饅頭を差し出す。この中年にさしかかった男は左党のくせに甘い物もやる両党だった。それを利用して懐柔しなければこの上得意の家に出入りはできない。
「お茶」
 フロ、メシ、ネル…大昔の亭主関白のような命令だと思いながら、間崎は黙って用意の急須に緑茶の葉を入れた。上井は饅頭とタバコ両手でパソコンに戻り、ぎらぎらした目で画面を見詰めて唸っている。
 間崎が出した茶を啜り、饅頭をいくつか貪った後に、ようやくキーボードを連打する音が響き渡り始めた。調子がのっている間は気を抜くことができるが、しかし間崎が帰ることはできないのだった。

 そういえば初めてこの家に営業に来たときも、上井は締め切りに追い詰められていた。間崎にとって非常に運の悪いことに何かが気に入られ、わけのわからないうちに大口の契約が取れた。そして、差し入れをするのはともかく、いつの間にか食事を用意したりするようになっていた。
 果ては編集もどきに下読みをして本物の編集に届けたり、打ち合わせをしたりとマネージャーのような事までしている。プライベートの時間を割いてまでだ。

「失礼しま…あ、間崎さん。お世話になります」
 担当編集がやってきて、小声で間崎に挨拶する。彼も慣れたものだった。二人でそっとソファのある隣の部屋へ移動して、間崎の煎れた茶で一息をつく。
「しかし、間崎さんも何の因果か、大変ですね。もう一年ぐらいになるんじゃないですか?」
「ええっと……そうですね。ちょうど一年だ」
 編集者の苦笑いに、指折り数えて頭を下げた。
「この先生のところでこれだけやれれば、間崎さんは優秀な編集になれるかもしれないな。なんてね、銀行屋さんの方がもっと大変ですよね」
「いえいえ、私どもはきまりがあって、その上でやってくだけのことですから。読者のいろんな要望に答えたり、作家さんを後押ししたりする方がよっぽど難しいことですよ」
 世間話に花を咲かせる間も、キーボードの音が淀みなく続いている。

「……ひょっとして、そろそろご栄転とかあるんじゃないですか?」
 ふと編集者が尋ねた。悪戯めかしに笑って付け加える。
「でなければいいお嬢さんとのお話とか。失礼ながら間崎さんは三十行ってますよね? 男ざかりで仕事が出来て、これだけイケメンなら縁談とかバンバン来てるんじゃないですか?」
 間崎は赤くなって首を振った。テレビや、小説のようなお話の発想ではあるが、なまじ身に覚えがないでもなかったのだ。
「いやっ……あの……。そう、そういうお話は、まだ私には早いのでお断りを。未熟者でして……」
 相手が縁談を勧める上司でもあるかのように、しどろもどろになってソファの上であとじさる。 
「おっ! あったんですね? どんな話だったんですか?! ひょっとして電撃結婚、年明け栄転とか!」
 ネタに食いつく好奇心の強さで編集者が盛り上がったとき、隣の部屋から激しい物音が聞こえてきた。イスをひっくり返した音だった。
 間崎と編集者が腰を浮かしてそちらを伺っていると、2、3回乱暴にキーを押す音が響いた。やがて印字された用紙を手に、上井が姿を現した。

「メールで送った」
 短い言葉と共に編集者に渡すフロッピーと用紙は、完成原稿であるらしかった。それさえ貰えばこれからが彼の仕事だ。早々に挨拶をして帰っていく。
 間崎は上井と取り残された。上井はいつもの締め切り以上に顔色が悪く、立っているのも辛いのか前後左右に揺れている。
「……あの……お話は、また今度に。一眠りされた方がいいと思いますが」
「……ゃがって」
「え?」
 間崎が腰を屈めて上井を覗き込むと、何事か呟いた。聞き取れず、眉根を寄せてさらに近づくと、ネクタイを鷲掴みされ、唾の飛ぶ間近で揺すぶられた。
「殺しやがって! 俺を殺したくせに、勝手に結婚するのか! ああ、よござんしたね。お荷物から逃げてどこか遠くで生きればいいだろうよ。だがな、忘れるな。お前は俺を殺したんだ!」
 間崎の眼鏡が吹き飛んだ。なまじの力ではびくともしない体格だが、呆然として上井のなすがままになっている。背広がよれ、ネクタイが引っ張り出され、空いた片手でも軽くはたかれてきっちりと整えていた髪筋が額に乱れかかった。
「俺はお前に殺されたんだ。ミステリーもサスペンスもホラーもスプラッタも極めた、ダークナイトと呼ばれたこの俺がだ! ……身に覚えがないとは言わせんぞ」
 すさまじい目つきで睨まれたが、間近で見るとまっすぐに間崎を見詰め返してきて、逸らすことができなくなった。

「あのー……何だかよくわかりませんが、とにかく、私は結婚とか栄転はありませんから。それと、上井さんは生きてますから、私は誰も殺してませんし。あんまり、大きな声で何度も言われたら、あらぬ誤解を受けそうです」
 間延びして静かな間崎の声に、目に見えて上井の力が抜けた。間崎より一回りだけ小さい体が、脱力して寄りかかってくる。
「……嘘つけ。しらばっくれやがって。お前は俺を殺したんだ、一年前の今日に」
 間崎は上井をそっとソファに押しやって横たわらせ、背広のジャケットを脱いで着せかけた。しゃがんで探し当てた眼鏡をテーブルへ置くと、そのままソファの下へ腰を下ろす。
 上井の手が肩へ落ちてきたので、間崎は思わず押さえるようにして握った。上井の手は冷え切って固く強張り、容易に手の中に収まらなかった。
「上井さんの言う、殺したっていうのが私にはよくわかりません。けど、何かがお気に障ったのならどうにかしてお詫びします」
 気真面目に言って頷くように頭を下げると、上井が笑った気配がして柔らかく手を握り返してきた。次第に暖かさが移っていき、間崎と上井の体温が同じになっていく。

「いいよ。俺が勝手に殺されたんだ。あのな、J銀の分解約してお前の所へ移してやる」
 唐突な話を振られて間崎は目を丸くして上井を振り返る。上井は目を閉じ、満足そうに口元を笑いに歪めていた。
「それは、ありがたいですが、一体、何ですか?」
「何でもねえよ。その代わり頼みがある」
 間崎は内心おびえて溜息を付きつつ返事を返す。
「はい…」
「嫌そうだな」
 すぐに言い当てられて言葉に詰まると、上井はひどく楽しそうに喉を鳴らして笑った。離さない手から逆流したように、笑いは間崎へ移って暫しの間、2人して忍び笑った。
「これからずっと俺の稼ぎはお前のもんだ。だからどうやって俺がお前に殺されたか考えてみろ。それから、もう少し、このままで、寝かせてくれ」
「はい」
 間崎はすぐに応えたものの、首を傾げて低く唸った。
「難しいですね」
「当たり前だ。俺がどれだけ稼ぐと思ってんだ、その代償だぞ」


 間崎が上井の言わんとするところに気づくのは、さらに一年後の同じ日の事となった。
 それも、痺れを切らせて逆上した上井に襲われてやっとのことで理解したのだった。



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続きを読むに設定する加減がわからないというか、無駄に長くて申し訳ない。イカサマ英語タイトルはエキサイト翻訳なので突っ込んでやってください…。
(円茶)
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Categorie11月お題『記念』
Genreアニメ・コミック Themeボーイズラブ

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